私の名前はダンプ・ブナパルト。イーマリーの父である。
フランスの由緒ある貴族の家系に生まれ、何不自由ない生活を送っていたが、何だかんだあって今はこのイルメール島で娘のイーマリーたちと暮らしている。
それでは不思議の島、イルメール島の世界へ
私、ダンプがご案内しよう。
ダンプとナタリーの間に生まれたこの物語の主人公であるイーマリーは、不思議な島、イルメール島に住む4歳の女の子。
親が手を焼くほどお転婆なイーマリーだったが、ある日彼女に特殊な能力があることを知る。
「イルメール島」
私たちが住むイルメール島は今から数百年前、ある星からやってきた宇宙人によって作られたといわれている。島には地球よりも高度な文明が存在しており、島の住民が住む居住区「リーフマリア」と手つかずの自然が残る自然保護区で成り立っている。島全体がイチゴの形をしているが、その理由については分かっていない。
島は地球上には存在しているが、人間の世界とは異なる時空にあり、普通にはたどり着くことはできない。島独自の生態系が存在し、それらの生態系を保つため、長い間人間との交流を絶っている。
また、島の住民の一部には魔法のような不思議な力をもつ者もいる。
そんな、イルメール島に住むための条件は3つ、
①イルメール島で仕事をもち真面目に働くこと
②島の事は島以外の人に決して話さないこと
③島の秩序を守ること
という簡単な約束だけである。
島の住民は王の不思議な力により、なりたい姿になる事が出来る。パンダに亀、ペンギンに恐竜など。私は元々フランスの由緒ある貴族の出身であったが、島の住民を人間の世界へと運ぶ仕事につくためクジラを選んだ。ちなみに、私は島の王からもらった不思議なペンダントで呪文を唱えるだけで、いつでも自由に変身することができる。
「イーマリー誕生」
10月24日。少し肌寒さを感じる明け方、わが娘、イーマリーはこの世に生を受けた。
今では手を焼くほどお転婆なイーマリーだが、生まれたばかりの姿はまさに天使と言えるかわいさ。イルメール島で子供が生まれると、その日は祝日となり島中がお祭り騒ぎとなる。
島の王から住民たちに”いちごオレ”が振る舞われ、祝福を意味する「リモ!」と皆で声を掛け合いながら、あちこちでダンスをするのがこの島の風物詩である。
子供の誕生にこれだけ島が盛り上がる理由は、イルメール島で生を受けた子供には、後に不思議な力が宿るという言い伝えがあるからだ。
“もしかしたらイーマリーにも・・・”と期待した私は、生まれたばかりのイーマリーを連れて、島の長老であるウミガメのサーマン老師の元を訪ねた。
「名をイーマリーとするが良い」
サーマン老師はすでに1000歳を超えており、この島の生き字引と言える存在である。イルメール島が出来たばかりの頃からこの島に住んでおり、島のことなら何でも知っている。私と妻のナタリーが島に住み始めた頃、身寄りのなかった私たちの仕事の相談に乗ってくれたり、島の歴史や文化、しきたりや習わしまでこと細かく教えてくれた。
サーマン老師は、心眼と言われる心の目で物事の本質を捉える能力がある。しばらく目を閉じたままイーマリーの頭に手をかざしていたが、やがて静かな口調で語り始めた。「満ち満ちる金色の光が照らす5つの星。5つの星はこの島の心である。名をイーマリーとするが良い。」
言葉の意味がいまいち理解できなかった私たちは、サーマン老師にその意味をしつこく尋ねたが「いずれ分かる時が来る」と言うだけで答えてはくれなかった。ただ、こうしてサーマン老師が名付け親となり、この子の名前は「イーマリー」となった。
「お姉ちゃん」
イーマリーには10歳になるお姉ちゃんがいる。我が家の長女、イアンヌだ。
イーマリーはとにかくイアンヌのことが大好き。イアンヌが行くところにはどこでも着いて行き、時には学校にまで着いていくと駄々をこね、我々は手を焼いた 。
そんなイアンヌがある日突然「わたし、デザイナーになりたいの。だからパリに行かせて。」と真剣な顔で話をしてきた。
突然の事に驚いたが、歌手である母親の公演に引っ付いてパリに行く事が時々あり、ファッションの世界に徐々に憧れを持ち始めたらしい。私も元々はフランス貴族の出。今から思えばこの流れは必然だったのかもしれない。
最初に話を聞いた時はもちろん反対をした。しかし、ナタリーから「子供の夢を応援するのが親の役目でしょう?」というゴリ押しにもあって、最終的には渋々許可した。
「別れ」
イアンヌがパリに出発する日の朝、様子がいつもと違う事を敏感に感じとったイーマリーは、イアンヌのそばを離れようとはしない。
毎回、ナタリーがパリへ公演に行く際も駄々をこねて大変なのだが、そんなイーマリーをいつもなだめてくれていたのがイアンヌである。
そのイアンヌまでいなくなると・・・、想像するだけでゾッとした。
こうして、大好きだったイアンヌとしばしのお別れ。ひとりぼっちになったイーマリー。それからというもの、あれだけお転婆だったイーマリーから笑顔が消えたのである・・・。
「出会い」
大好きだったイアンヌがいなくなってから、イーマリーは毎日泣いていた。見るに見かねた私は少しでも気休めになればと思い、ペットを飼う事にした。
元気がないイーマリーを強引に背中に乗せ、リーフマリアの中央を流れるチェリーリバーを下り、自然保護区へ。しばらく川を下っていると、川岸から何やら物音がする。音のする方へ目を凝らしてみると、ペンギンらしき生き物がなぜか空を飛ぶ練習をしているようだった。
するとそれまで元気がなかったイーマリーが私の背中から川岸に飛び降り、突然ペンギンの方に向かって走り出した。そう言えばイーマリーは家にあった動物図鑑を見ながら、ペンギンが一番好きだと言っていたことを思い出した。
こうして僕たちとKP(ケーピー)は出会った。
「KP」
空を飛ぶ練習を終えたKPは色々と話をしてくれた。空を飛びたいという想いから島の王にペンギンの姿にしてもらったそうだが、ペンギンが空を飛べない動物って事は知らなかったらしい。
また、毎日飛ぶ練習ばかりしているので今は仕事をしていないらしく、周囲からそろそろ仕事をするようにと何度も注意を受けているそうだ。
すっかりKPを気に入りいつもの元気を取り戻したイーマリー。
KPもその日暮らしをしていた所為もあって、その日から我が家で暮らすこととなった。